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「女性の活躍舞台づくり」委員会

第7回 「女性の活躍舞台づくり」委員会報告

日時:平成24年3月14日(水)午後零時〜2時

場所:東京・内幸町 日本記者クラブ9階 小会議室

出席者:牛尾奈緒美(ゲスト・講師、明治大学情報コミュニケーション学部 教授)、國井秀子(委員長、リコーITソリューションズ取締役会長執行役員)、坂東眞理子(昭和女子大学学長)、河野真理子(株式会社キャリアネットワーク代表取締役会長)、麓幸子(日経BP社 日経WOMEN編集長)、橋田忠明(専務理事、日本経済新聞社社友)、小平和一朗(事務局長、(株)イー・ブランド21代表取締役)
[欠席]守屋朋子(金沢工業大学大学院客員教授)、堀井紀壬子(NPO法人GEWEL代表理事)、本間美賀子(日本ユニシス人事部人材育成センター)、林裕子(山口大学講師)

1. 委員会の討議内容

 まず、橋田専務理事から、1月24日に岡村に本商工会議所会頭を招いて実施した、第5回政策首脳懇談会、「MOTエグゼクティブ・スクール2012」、及び植田麻記子主任研究員によるレポート「MIT留学報告」の紹介などがあった。続いて、「女性の活躍舞台づくり」第1回シンポジウム(2月9日開催)についての報告があった後、明治大学情報コミュニケーション学部の牛尾奈緒美教授から、「ダイバーシティを推進する組織の新たなリーダーシップ」とのテーマで講演が行われた。

1.1 講演:「ダイバーシティを推進する組織の新たなリーダーシップ」

自己紹介

 明治大学情報コミュニケーション学部にて教授をしている。大学のジェンダーセンターという組織の副センター長をしている。また國井委員長とともに内閣府男女共同参画推進連携会議の議員、セブン銀行の社外監査役もしている。
昨年、日経新聞出版社より『ラーニング・リーダーシップ入門・ダイバーシティで人と組織を伸ばす』という本を出した。その内容をもとに講演を進めていく。
ダイバーシティが求められている背景は、個人レベルでは自己実現の促進、メゾレベルでは組織の競争優位獲得、利益拡大の観点(グローバル化の中での潜在労力発揮)、マクロレベルでは労働人口の増加、GDP拡大。大切なことは、個人の幸せを追求していくことだと考えている。個々の個性と能力が発揮されることで、人材の活性化と企業の発展がもたらされ、そこから国の発展が望まれる。自身の生きる道を、性差ではなく価値観によって選択できる世の中であって欲しい。

企業を取り巻く環境の変化

環境変化やグローバル化のスピードが加速度的に上がり、複雑化した問題への迅速な対応が求められている。少数の優秀なリーダーによってすべての問題が解決できる時代ではない。米国では9.11、日本でも東日本大震災のように、”Need to Know”から”Need to Share”への変化、つまり情報をリーダーに集中させるのではなく、組織で共有することで正しい判断にたどりつけるという発想に変えていく必要がある。
組織全体が情報を共有して、トップがすべてを指揮するのではなく、局面によっては指揮がなくても組織の構成員が動くようなあり方が必要。福島原発の現場担当者など、部下の良識、判断が大事故を防ぐ要素となる。
企業を取り巻く環境の変化として、労働人口の減少など人口動態の変化がある。女性の登用を義務づける国際的な枠組みへの対応も求められるようになっている。価値観の多様化から、長時間勤務だけでなく、多様な働き方も求められるようになっており、これらが企業の生き残りに取って重要である。属性や雇用形態において、多様な社員を受け入れる必要がある。
最近のニュースで、EU全域で女性役員の割合をクォーター制で義務づけることを一律に規定していこうとする動きがある。この背景として、企業の取り組みだけでは限界があるという認識がある。違反に対しては制裁金をかけて厳しく取り締まろうという意見もある。EU域内で上場している日本企業も影響を受けるし、投資などの面で制約を受けるため、これが一つの弾みになるのではないか。クォーター制についてはノルウェーが特に進んでいて、40%を超える。その他スウェーデン、オランダ、スペイン、フランスなどもクォーター制を進めている。しかし、日本は1.4%と、依然として低い。

新しい組織が求めるリーダーシップ像

働き方が多様化している中で、個人の属性や働き方によって評価のバイアスがかからない制度にしなければならない。そのためには、上司の度量、見識が求められる。今後の社会は、一つの企業に勤めることで生涯が安泰だという概念は持てない。また、企業の寿命自体も短くなっているが、一方で人々は高齢化し、長く働き続けなければいけないというギャップが出てきている。企業の枠を超えて、汎用的に通用する能力がなければ、生き残っていけない。自分が常に社会に必要とされるための、自律的なキャリアとセルフブランディングが求められる。
このように多様化した個人をまとめ上げる、新たな企業価値や組織のあり方を考えなければいけない。求められるリーダーシップとは何なのか。従来はカリスマ性、独裁性などが重視され、常にリーダーが主役であったが、今は限界がある。
新しいリーダー像では、相手を理解しようとする感受性、少数派を尊重する多様性、リーダーとフォロワーの双方向性の重視、柔軟性が求められる。「ラーニング・リーダーシップ」の考え方では、フォロワーの自律性を重視し、時にはフォロワーの側にリーダーシップを期待する。もはや過去の成功体験は通用しない。フォロワーから学ぶ姿勢が重要。
伝統的なリーダーのスタンスは、マニュアル指向性、自己中心性、人材の画一性、同一性、一義的なリーダーシップの発揮、指導・教育などであった。新しいリーダーは、成功体験からの脱却、状況適応、中心と周縁の互換性、双方向性、人材の多様性、フォロワーからの吸収等が求められる。
新しいパワーの源泉は、一方的な恩義から相互的な恩義、互いの経験や知識、能力に対する信頼、互いが自立しつつ協調することの自覚に変化していくと考えられる。これからの組織に求められるものとして、共有、信頼、相互作用、コミュニケーションなどが重要になってくる。なでしこジャパンの佐々木則夫監督は、「上から目線」ではなく「横から目線」、「レッツの精神」と言っていた。
リーダーが方向性を率先して明示することは求められるが、下の人々の価値観を共有していくべき。人々の善意の総和によって、日本に明るい未来が訪れればと思う。

1.2 講演後の意見交換

(1) 講演後、坂東委員から、ダイバーシティについて、企業や組織がコスト削減のために非正規雇用が増えている状況下、ダイバーシティの増大に関して経済界が抵抗している中、どのように対処すべきか、また、「ラーニング・リーダーシップ像」をどのように広めていくのかという質問が出された。それに対し、牛尾講師が「男性の正規社員を守るためのシステムに限界が来ている」「少しずつ正規・非正規の壁がなくなりつつあることで、ダイバーシティにつながる」との指摘、また今後少しずつ労働に対する認識が変化していく可能性があるとの期待が述べられた。さらに、フォロワーからのリーダーシップ、リーダーとフォロワーとの双方向性が企業内で実現されている例、また総合商社では長期的に人材を育成していく風土があり、女性を積極的に登用することが望まれている点、血の通った関係性が重用視され、ダイバーシティがはっきされている例もあると指摘した。

(2) 國井委員長から、男性中心の組織で育つと、「上から目線」「下から目線」でのコミュニケーションは取れるが、「横から目線」でのコミュニケーションが取りにくい、しかし、そのような組織で育たない女性は「ラーニング・リーダー」に育ちやすいのではないかというコメントが出された。また、カリスマ的なリーダーの方がメディアに取り上げられやすい面があるが、同時にラーニング・リーダーを創出していかなければいけないという指摘もなされた。

(3) 橋田専務理事から、JALを再建した京セラの稲盛会長はある面でカリスマ的であったが、同時に、稲盛会長は毎週セクションごとのリーダーを集めて勉強会を開き、企業の意識を変えたという指摘がなされた。また委員各氏から、日産のゴーン会長もカリスマ的であると同時に現場主義であり、学ぶ姿勢を絶やしていないとの指摘が出された。

(4) 主題である女性役員の増大については、女性に長く働いてもらうための待遇面での見直し、雇用条件面での整備が必要であるとの指摘がなされた。さらに、牛尾講師から、「インタビューで深く話を聞くと、退職する表向きの理由は出産・育児だが、実際には働きがいを見出せず、あきらめていると言う女性も多い。仕事と家庭の両立だけでなく、職場で女性に対する期待を増やすことが重要」「女性の役員候補が増えてくれば、どうしても競争が激化し、足の引っ張り合い等も起こる。この点はどの企業でも難しい部分である」との指摘もなされた。

(5) 牛尾講師や委員各氏から「男性と違い、女性は先輩役員の成功・失敗事例を観察することができない。女性役員については周囲からの支援を厚くし、具体的な職務内容や課題を明示することが必要」、「役員に対してもメンターを付け、フォローする事例もある」、「異業種交流会などで他の企業や業界で活躍する女性の認知度を上げていく」、「まずは子会社で女性役員としての経験を積ませ、徐々に昇進・昇格させていく方法もある」、「やはり女性の活躍が求められているという社会的な意識を持たせると同時に、自律性、前向きな精神を持たせることが必要」等の意見が出された。

(6) 出世競争という点について、役員となる女性社員は組織内の政治的な動きではなく、技術や知識を評価されることが多いため、不必要な権力闘争に巻き込まれにくいとの指摘が出された。また、「ダイバーシティの実現によって女性役員の数も増えれば、社長など最上級の役員人事にも透明性が増してくる可能性もある」「欧米のほとんどの企業では人事本部長が女性であり、公正度・透明度が高い。ただし、欧米では現場主義のため、人事部の地位がそれほど高くない面もある」などのコメントがあり、議論は終了した。

2. 次回会合

橋田専務理事からの説明で、第8回委員会は、6月13日(水)の午後零時〜2時に開催することとなった。次回の講師は経済同友会副代表幹事の橘・フクシマ・咲江氏(G&S Global Advisors Inc. 代表取締役社長)が行うこととなった。テーマは経済同友会の初の「『女性の活用推進宣言』について」となる予定である。


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